位数が有限の体のことを有限体と言います。
有限体に関して成り立つ基本的なことを、具体的な計算によって確認します。
基本的なこととして、次のことが成り立ちます。
有限体は位数が $p^n$ ( $p$ は素数で、$n$ は自然数 ) のときのみ、同型を除いてただ一つ存在する。
位数が $p^n$ の有限体を $\mathbb{F}_{p^n}$ と書く。
単純な場合として、位数が素数 $p$ の場合を考えます。
この場合 $\mathbb{F}_p$ は、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ と同型になります。
($p\mathbb{Z}\subset\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}$ の極大イデアルなので $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は体であり、
$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ の位数は $p$ なので)
従って$\mathbb{F}_p$ の元は $0,\dots ,p-1$ によって表され、掛け算は普通に$\mod p$ すれば計算できます。
例えば $p=7$ とすれば、
\[ 5\times 6 = 30 =2\quad in\ \mathbb{F}_7 \]
一方 $a$ の逆元を求めるには $ab=1$ $\mod p$ なる $b$ を探さねばなりません。
そこで原始根を用いれば掛け算、割り算が簡単になります。
$m$ を $p$ の原始根の一つとすれば、$m^1,\ m^2,\dots ,m^{p-1}$ の値は $1,\dots ,p-1$ の値と一つずつ対応します。
(フェルマーの小定理から $m^{p-1}=1$ となることに注意)
逆に $1,\dots ,p-1$ のすべての値を $m^i\ (1\le i < p)$ の形に表すことができます。
$m^i$ の形に表すことができたら、掛け算は $m^i\cdot m^j = m^{i+j}$ によって求めることができます。
また、$m^{p-1}=1$ であることから、逆元は $(m^i)^{-1}=m^{p-i}$ となります。
$p=7$ の時にやってみましょう。
$m=3$ とすると $(m^i)_{1\le m < p} = (3,2,6,4,5,1)$ なので $3$ は $7$ の原始根です。
\begin{align}
1=3^6\\
2=3^2\\
3=3^1\\
4=3^4\\
5=3^5\\
6=3^3
\end{align}
従って、$3^6=1$ に注意すると、
\[ 5\times 6 = 3^5 \times 3^3 = 3^8 =3^2 = 2 \]
となり、先ほどの計算と一致します。
逆元についても、例えば $5^{-1} = (3^5)^{-1} =3^{6-5} = 3^1 =3$ と求めることができます。
掛け算、割り算が指数の足し算、引き算に置き換わりました。
ちなみに $p$ の原始根の一つを $m$ とすれば、$p$ のすべての原始根は
\[ m^k\quad (\ k\ は\ p-1\ と素\ ) \]
の形に表せられることは、$m^k$ の冪について考えれば明らかでしょう。
従って $p$ の原始根の個数は、 $p-1$ と素な $k\ (1 \le k < p ) $ の個数、つまりオイラーの $\varphi$
関数によって $\varphi (p-1)$ で表されます。
$p=7$ の場合には、$6$ と素な $k$ は、$1,5$ であり、原始根は $3^1=3,\ 3^5=5$ となります。
$\mathbb{F}_p\cong\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ ですが、$\mathbb{F}_{p^n}\cong\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z}$ ではありません。
($p^i\cdot p^{n-i} =0$ なので $\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z}$ は整域ではない。よって体でもない。)
位数が $p^n$ の一般の有限体 $\mathbb{F}_{p^n}$ については次のことが知られています。